麻枝准×岸誠二トークイベント in Waseda 〜way to[from] AngelBeats!〜 記録

以下の記録は、2010年11月7日(日)、早稲田祭における「早稲田アニメ愛好会(WAL)」のイベント「麻枝准×岸誠二トークイベント in Waseda 〜way to[from] AngelBeats!〜」として、早稲田大学早稲田キャンパス15号館402教室で13時〜15時にかけて行われたものの記録です。
対談形式でどんどん話が進んでいったため、可能な限りメモを取りましたが、かなり書き落とした部分があります。文字起こしの原稿は発言者の言葉そのままではなく、読んで会話の流れが寸断されないように、かつ、繋がりが良くなるように、捏造、省略、改変などを行っております。ここに書かれたことがそのまま事実ではないことは、重ねてご留意ください。
さらに、自身の原稿を作成後、このイベントの報告がなされていた様々なブログ記事との照合を重ね、可能な限り事実関係の摺り合わせを行いました。信頼度はかなり上がったと思いますが、完全とは言い難いので、誤りがありましたらコメント欄にてご指摘ください。
参考にさせていただいた記事は以下のとおりです。
fummyのkeyノート(2010年11月7日)
かぎっこのじゆうちょう(2010年11月8日)
Ни пуха, ни пера!(レポート前半)
Ни пуха, ни пера!(レポート後半)
何がしたいのかわからない(2010年11月10日)
今日もやられやく(2010年11月8日)


また、この記録を掲載した本を冬のコミックマーケット79にて発行予定です。『恋愛ゲームシナリオライタ論集2 +10人×10説』では、誌面の約半分を、私の書いた麻枝准に関する記事が占めております。主に『リトバス』『リトバスEx』『Love Song』を題材にしております。こちらもぜひご参照いただければと思います。よろしくお願いいたします。


以下、発言者表記は以下のとおりです。
【鈴木】司会者1:早稲田アニメ愛好会企画長 鈴木氏
【高橋】司会者2:アニプレックス『AngelBeats!』広報担当 高橋祐馬氏
【麻枝】『AngelBeats!』原作・脚本 麻枝准
【 岸 】『AngelBeats!』監督 岸誠二



【鈴木】今回のイベントを企画させていただきました、早稲田アニメ愛好会・企画長の鈴木です。
【高橋】『AngelBeats!』の宣伝を担当しております、早稲田大学の高橋祐馬です(聴衆笑いと歓声)。大学での開催ということで、早稲田アニメ愛好会のTシャツを一緒に着て、ほら、天使が背中に付いている(と背を向けてプリントされた絵を見せる)。高学歴への憧れから、私も学生になった気で一緒に司会をさせていただきます(拍手)。ところで、今回のイベントは、『AngelBeats!』がテレビ放映された後の公開対談としては初めてとなります。初めて行うこのような講演会がこの早稲田ということで、事前に質問を用意させていただきましたが、メールなどで募集した質問が50個以上あります。1つにつき3分も掛けたらアウトという状態です。
【鈴木】いくつ質問できるかわかりませんが、早速始めたいと思います。その前に、皆さんに聞きたいことがあります。『AngelBeats!』は好きですかー?」と訊いたら、「おー!」と答えてください。それでは、『AngelBeats!』は好きですかー?
【聴衆】「おー!」


(岸、麻枝両氏入場。BGMは「My Soul,Your Beats!」。聴衆から拍手)


【鈴木】それでは、最初にフリートークとして、自己紹介からお願いいたします。
【 岸 】『AngelBeats!』の監督を担当しました岸誠二です。
【麻枝】同じく『AngelBeats!』の企画・脚本・音楽監修・ディレクションその他諸々を担当しました麻枝准です。
【高橋】こういったイベントを大学でやるというのは珍しいことですよね。
【 岸 】私はここ2、3年くらい毎年早稲田大学に来ているんですよ。また呼んでいただけてうれしいです。
【高橋】そうなんですか。麻枝さんは?
【麻枝】私にはそんな機会は全くありませんでした。一介のサラリーマンなので。
【鈴木】皆さんの早稲田大学に対するイメージはいかがですか?
【 岸 】六大学野球優勝おめでとう!(聴衆から拍手喝采
【麻枝】大石の投球には燃えましたね。
【高橋】聴衆の方々は早稲田大学の学生さんが多いんでしょうか。早稲田大学生の方は手を挙げて!(パラパラとしか手が挙がらない) 一般の方が多いようですね。あまり早稲田の話ばかりしても……なので、次にいきたいと思います。


【鈴木】企画1、Question Beats!です。最初の質問は、『AngelBeats!』のタイトルについて、誰が、どのように決められたのでしょうか。
【麻枝】まず自分で3〜4個候補を出しました。一押しは『Angel Beats 〜Minimal Player〜』でした。ミニマルミュージックというのは、単純なタンタンタンタンというリズムで進行する音楽で、ちょうど心臓の鼓動と重なるんです。で、これが一番いいと思っていたんですが、いかんせん長いと。
【 岸 】で、わかりやすくいこうと『AngelBeats!』であっさり決まったんです。いつの間にか。なし崩しかよ、という感じですが。
【麻枝】俺的には、ああ、やっぱりそこにいってしまうんだ、という感じでしたね。やっぱり奏の心音がminimal beatsと被っていて、音無は音が無い、というところで音楽と掛けていて、Angel Playerというソフトウェア、というところを盛り込みたかったのですが。


【鈴木】これまで麻枝さんはゲームのシナリオを書いていらっしゃいましたが、今回、アニメということで、メディアの違いについておうかがいしたいと思います。アニメ制作で、例えば絵作りのことなどは?
【麻枝】ゲームは、自分が企画し、自分でシナリオを書いて、自分ひとりで完成させていくもので、ことシナリオに関しては全て自己責任でした。ゲームを出してから、良かれ悪しかれ叩かれて、ユーザーに意見を頂戴しつつ、ここまでやってきました。これに対して、アニメでは、脚本を作る段階から、いろんなひとの意見を聞くことになりました。本読みという打ち合わせが月1回の頻度であって、1字1句台詞を精査されるんです。これまでシナリオをひとりでやってきた俺には、これがすっごいしんどかった。他のゲーム会社では、1人が書いたシナリオがそのまま世に出るということはまずないと思うんですけど、Keyではたまたま最初の経緯が「こいつらに好きにやらせてみるか」(Key移籍時の馬場社長談)というのがあって、そのままやってきています。これに対してアニメでは、第4稿、第5稿という感じで、何度も何度も脚本を直していくんです。まさに共同作業で、自分がゲームを作っているときはこんなことはなかったので、それが辛かったですね。
【鈴木】脚本の打ち合わせには、他に誰が関わったのですか?
【麻枝】岸監督、堀川ピーエーワークス社長などでディスカッションを繰り返しました。
【高橋】アニメの脚本の仕事は辛くてもうやらない、みたいなことを仰っていましたが?
【麻枝】もうそれはシブシブとお仕事をする、という感じで、脚本の打ち合わせの日は、大阪を新幹線の始発で東京に来て、(日が変わる)12時に帰宅という日々でした。1回の本読みで、休憩も取らずに、6時間以上ぶっ続けでやるんですよ。
【高橋】そのときは、麻枝シナリオに岸監督が意見する、と(岸監督に話を振る)。
【 岸 】そうですね、筋書きは麻枝さんので大枠はもう固まっているんですけれど、それを映像に落としたときにこうすれば格好良いとか、映像に落とし込みやすい、という観点から、あとは、画面の繋ぎやすさなどで意見させていただきました。


【鈴木】次に『AngelBeats!』放映前後でお互いに印象が変わった、というところはありますか?
【 岸 】そんなに変わらないね。
【麻枝】(質問の趣旨を取り違え、自分が受け手から見られる印象として回答)変わりましたね。アンチが凄く増えました(聴衆大爆笑)。ゲームでは受け手が限定されていますが、アニメは地上波で(放映されたので)ただで見れる。アニメの脚本未経験の人が脚本で(広い層に見られて目立ったので)出る杭は打たれる、ということで、これまでの自分の古参ファンが、アンチに翻った。代わりに、学生(大学生のみならず、中高生も含めた用語か?)の人達が新しいお客さんになってくれて、ライトユーザーが凄く増えて裾野が広がりましたね。でも、そういう人達は、スタッフのことは知らないし、麻枝准という名前も知らないで見ている。結果、自分のファンが減っただけという(聴衆笑)。
【高橋】大丈夫ですよ。みんな、好きですよ。


【 岸 】お互いが初めて会ってから3〜4年経ちます。最初はアニプレックスの会議室で。あのときは、自分の仕事がえらいことになっている状況で、なんだったかな……。
【高橋】サンレッドですか?
【 岸 】そう、サンレッドもだけれど、あと、瀬戸の花嫁OVAだったかな、その頃。
【高橋】相互の印象は?
【麻枝】2008年頃に大阪で会議をしたとき、これまでの岸監督の仕事が片付いて、ようやく『AngelBeats!』に本格的に入って来たとき、それまでは会議にひょいときてひょいと帰る感じだった監督が、豹変して「よーしやるぞ!」とホワイトボードにガーッと書き出していきなりリーダーシップを取り始めて、おお!と思いましたね。
【 岸 】そのときに、作品がぶれないためのテーマとして、「人生賛歌にしよう!」と決めて……。
【麻枝】でも、俺は、「人生」ってもう『CLANNAD』でやってしまって被っているんですけど……、と(聴衆笑)。


【高橋】そんなお2人ですが、どちらもリテイク魔だということで、スタッフの方は大変だったようですが。
【 岸 】同じタイプで、どちらも細かく注文を出して、いつまで経っても終わらない。性格的にはスタッフの人はそりゃ大変だったと思いますよ。でも、いいものを作ろう、という点ではお互い共通していたと思います。
【 岸 】で、(麻枝の第一印象は)最初は、正直どんな人だかわからなかった。作家という人はとても神経質だと聞いていたんで。
【麻枝】むっちゃ神経質ですよー(聴衆笑)。
【 岸 】でも、二面性、三面性あるでしょう? 今は楽しい人、面白い人、という印象ですね。


【鈴木】では、ここで先程も話に出ました『AngelBeats!』のメッセージについて、人生賛歌ということでしたが、具体的には?
【 岸 】麻枝さんのあらすじが最初にあって、方向性を固めるための大阪合宿会議の段階で本はできていたのですが、スタッフへ共通意識を持たせるため、ブレないテーマを掲げようということで、人生賛歌ということを打ち出しました。本を読んで受けた印象を、恥ずかしげなく言おう、これを背骨にしてこれからやっていこうということで。
【麻枝】自分としては、本当に『CLANNAD』と被っていて、どうかなあ、と思っていたんです。
【 岸 】でも、掲げられているテーマには感じるところはあるでしょう。
【麻枝】自分としては、苦しんでいる人、辛い人に前向きになってほしい、と思って書きました。
【 岸 】私も、作品を見てもらってから、考えたり、思うところがあったら、良い意味で影響(をうけること)があればいいと思って作っていました。


【鈴木】『AngelBeats!』では、ガルデモというバンドシーンを丁寧に描いていた点に特徴がありますが、この点にこだわりはありましたか?
【 岸 】意図的に、こだわって作りました。せっかく麻枝さんのシナリオの中でバーッと書いてあったので。また、作品的にバンドを取り上げているものがいくつもある中で、お客さんも目が肥えているので、バンドをしっかり描かなかったら、認めてもらえない、と思って。
【麻枝】監督がインタビューで「バンド演奏シーンのクオリティ競争に終止符を打つ」と言っていたくらいですからね。
【 岸 】あれは、そういう競争はもうこの辺で終りにしましょうという意味です。チキンレースです。このまま行ったら、もう誰か崖から落ちないと終わりませんね。でも、ピーエーワークスのスタッフは相当辛かったようです。ライブの作画はリテイク一個で何百枚も描き直さなければならず、完成したアニメを見て堀川社長も驚くぐらいの短さで。バンドシーンの何がしんどいって、リテイクを出すと、ギターの6弦が全部描き直しになったりすることなんですよ。
【高橋】岸監督からのリテイクは、バンドの場面が多かったのですか?
【 岸 】当然ながら、(バンドの場面の)リテイクはあります。リテイクを出すたびに、ピーエーワークスのスタッフが火を噴きました。
【高橋】ちなみに、今期もバンドアニメを放映していますが、まだまだチキンレースは続くという感じでしょうか。


【鈴木】『AngelBeats!』の登場人物やサブタイトルには、ロキノン(rockin'on)系から名前を取られていますが、どうしてロックを押し出したのですか?
【麻枝】自分が音楽キチなので、今回は音楽縛りでいこうと。サブタイも全てそれに関わる名前です。音無も奏も、音楽を奏でる、音が無い、全て関係を付けています。
【高橋】サブタイトルはすんなり決まったんですか?
【麻枝】サブタイトルは一気に全部ワーッと出して、一度に渡しました。
【 岸 】それが、わりとそのまま、いいんじゃない? とすんなり決まりました。
【麻枝】これだけは特にリテイクもなくて、逆にびっくりしました。


【鈴木】第4話のオープニングですが、これをロックバンドに変えた経緯は?
【 岸 】シナリオ会議のとき、ちょうどユイがガルデモに入りたい、という流れがあって、それで入れてもらいました。
【麻枝】あれはやってもらえるんですか?という感じでした。ピーエーワークスには相当な負担を掛けましたけれどね。
【 岸 】あれを入れようって言ったの俺だっけ?
【麻枝】あなたです(笑)。
【 岸 】現場が回転し始めて、相当ばたばたしている中で、やるかどうか直前までいろいろあったんですが、お客さんが喜ぶと思って、入れることにしました。
【麻枝】Liaさんも、4話のオープニングを見て喜んでいました。ただ、放映順とは逆で、「My Soul,Your Beats!」のレコーディングはLiSAさんが先なんですよね。Liaさんの方が後。
【高橋】何もないところからあれだけ歌えるんですから凄いですよね。
【麻枝】それでも、あれだけ2人がシンクロするのは、さすがプロだと思いましたね。


【鈴木】岩沢とユイは声優と歌手が別ですが、この点でマクロスは意識しましたか?
【高橋】その点は台本に「マクロス方式」と書いてあります(笑)。この点にこだわりはありましたか?
【麻枝】当時、ちょうど『マクロスF』が放送されていた時期だったので。もちろん声優さんも歌いますし、声優さんを貶める訳ではないのですが、アニメの中でNPCが熱狂するというシーンの説得力を出す(ためにプロの歌手を使った)の一点に尽きます。
【高橋】キャラクタはキャラクタでプロが演じ、歌は歌でプロが歌う、ということですね?
【 岸 】フィルム上でも歌手の声と声優の声が違っていても違和感はありませんでした。歌う瞬間は一般の人も声が変わりますし。ネットの感想でも「沢城みゆき歌うめえ」というのがあったくらい(区別がついていません)でしたから。
【高橋】歌手の担当についてはどうやって決めました?
【麻枝】岸監督が、岩沢の方がアーティスト性があって、癖があるのでこっち、と(marinaさんを推薦)。
【高橋】その頃は確かアーティストが先に決まり、キャストがまだ未定でしたよね?


【鈴木】声優の話になってまいりましたが、お2人の一押しキャラクタは?
【麻枝】俺は大山の小林由美子さんがお気に入りです。
【 岸 】ずるい!それ持ってかれたら俺が持っていくのTKのMichael(Rivas)しかないよ(笑)
【麻枝】飯田音響監督は、当初、(大山の声優は)男性を候補に挙げていたのですが、自分とNa-Gaさんがプッシュして(決まりました)。(Blu-Ray/DVDの)オーディオコメンタリーでも大活躍してくれました。引き出しを全部開ける勢いで。
【 岸 】5話のは最高ですね。(Blu-Ray/DVDに収録される予定の)14話は面白いよー。
【麻枝】日向(役の木村良平)も凄い頑張ってくれています。小林さんと木村さんが引き出しが多いので重宝していて、コメンタリーでもかなり大変なことをしてもらっています。10話のコメンタリーでもそうでしたが。で、木村さんを世界で一番うまく扱えるのは僕なんだ、という過剰な自信があります。『東のエデン』(の滝沢朗役)だけ見ている人にはわからない。
【 岸 】小林さん、木村さんは演技の幅が広くて、こちらとしてもいろいろやりたくなりますね。


【鈴木】いろいろなキャラクタの名前が挙がってきましたが、もし、SSSのメンバーになれるとしたら誰になりたいですか?
【 岸 】それは、どの不幸な人生を背負うかという話?(聴衆笑)
【麻枝】SSSのメンバーは基本的にみんなアホなので、俺はアホは嫌だから、12話に出てきた謎の青年で。
【 岸 】野田で。
【麻枝】「愛が芽生えました」(聴衆笑)。
【高橋】彼のキャストは、脚本を見たときから石田さん(石田彰)に、というのは決めうちしていて、岸監督と(アニプレックスの鳥羽)プロデューサーと、飯田音響監督とで意見を出して、麻枝さんに打診して決め、石田さんに交渉しました。石田さんからは「いいですよー」とすぐにOKをもらえました。


【鈴木】作中ではよく野球のシーンが出てきますが?
【麻枝】俺の趣味なので。今、ちょうど日本シリーズをやっていて、大阪から上京する際、前日でゆっくり入ってもいいのに、夕方6時にはホテルにチェックインしました。もちろん、日本シリーズを見るためです。ホテルの部屋で、1人で見ていて幸せです(笑)。
【 岸 】僕はスポーツバーなんかでわいわい言いながら見るけど。サッカーとか。
【麻枝】自分は1人ですね。良いアングルでじっくり見たい。これはコンサートとかも同じで、KSLライブ(2010年5月22日)のとき、舞台に引っ張り出されて、振り付けつきで踊らされたんですけど、あれは屈辱でした。ノリの悪い人なんで、じっと立って聴いていたい。高校は三重高校出身なんですが、自分が在学中のとき、野球部が甲子園に3年連続で出場(選抜高等学校野球大会(春)に平成2年〜4年の3年連続出場、平成4年には全国高等学校野球選手権大会(夏)にも出場)したんです。学校総出で応援に行くんですけど、スタンドから見るのは遠すぎます。結局家でテレビで見ていたんですが、その方がよっぽど良いアングルからアップで見れます。あんな小さいところから見てどうすんの?って感じです。プロレスとかも、一番後の席からこんなちっちゃいの見てわかるんか、と思いますね。


【鈴木】昨日の日本シリーズですが、延長に次ぐ延長戦ですね。
【麻枝】中日圧勝と思っていたのに、日本ハム(言い間違い。この時点では誰も誤解を解かない)に先行されて、勝てば逆王手、とか言われているんですけど、逆って何? 向こうの王手がなくなる訳じゃないのに。なので、逆王手って言葉は嫌いなんですよ。
【 岸 】日本ハムじゃなくて、千葉ロッテじゃね?(1話のゆりの台詞口調で)
【麻枝】あー。早稲田の斎藤(佑樹)が入団するんでー(早稲田繋がりで間違えましたと誤魔化そうとするも無理あり)。


【高橋】野球での希望のポジションは?
【 岸 】もう『Angel Beats!』関係ねー(苦笑)。
【麻枝】ファーストで、4番でお願いします。スラッガーはみんなこのポジションなんで。助っ人外国人とか。日本人なら清原とか。
【 岸 】僕はキャッチャーで4番でお願いします。
【麻枝】それは昔の城島くらいしかいないですよ。
【高橋】なんかもう『AngelBeats!』関係なくなってきましたね。でも今、(この話題で)麻枝さん燃えましたよね。
【麻枝】ええ、むっちゃ燃えました。


【麻枝】ところで、キャンパスを歩いていると、斎藤投手とすれ違ったりするんですか? 自分は中京大学出身で、同じ頃にハンマー投げの室伏(広治)とかいたんですが、全く会わなかったんです。
【 岸 】早稲田の練習場は遠いから。
【麻枝】室伏や(浅田)真央ちゃんがいたキャンパスは豊田で、自分のところにはいませんでした。
【高橋】なんかもうスポーツOFF会みたくなってきました。


【鈴木】なりたい自分という話が続きますが、もし、バンドをやるとしたら、楽器は何がいいですか?
【麻枝】ギター&ボーカル、センターで。この前のライブでもやらされましたけど。(Key 10th Festivalの入場券を掲げる人が聴衆の中におり、それに応えるように)Key 10th Festivalでは1人でギター弾き語りをやりました。
【 岸 】ボーカルですね。だって俺楽器弾けないから歌うしかない。ベースやギターはやってみたいけれど。これ言うとなんか発展性あるのかな?(歌をうたうオーダーがくるとか)
【高橋】次いきましょう。


【鈴木】次は、ここにいる方々から、事前にメールなどでいただいた質問です。まず、SSSメンバーのプロフィールは決まっていますか?
【 岸 】誕生日やスリーサイズってことですか?
【麻枝】今、お客さんが知っている範囲以外の情報はないです。
【高橋】キャラ設定は決めていないんですね。
【麻枝】ゲームでは、雑誌の取材などで毎回よく訊かれるんですが、訊かれたときに初めて考えて、それから決まります。『CLANNAD』の(伊吹)風子では、誕生日を海の日にしようと思っていたら、(ハッピーマンデーで)変わっていて、しまった!と。なんで、雑誌などの依頼は辛いです。
【 岸 】(プロフィールは)あまり気にしていません。ただ、絵描きの方々は、描くときの体型などがあるので気にしています。スリーサイズとか数字まではいきませんが。
【麻枝】誕生日などは何にも影響がありませんが。ただ、みすずちん(神尾観鈴)の誕生日はファンの方がみんなで祝ってくれていて、ありがたいです。
【 岸 】岩沢の成仏日があってもいいかもしれませんね。校長室の額の「レクイエム」が岩沢への鎮魂歌だったというのもありますし。


【鈴木】『AngelBeats!』のおかげで彼女ができたとか病気が治ったとか、お2人のなかで変化のあったことはありましたか?
【麻枝】日常生活の中で「もしかして麻枝さんですか?」と訊かれることが多くなりました。この前も、近所のラーメン屋に行って、店員に「刻みタマネギお願いします」と言ったら、その声で、「もしかして麻枝さんですか?」と。
【 岸 】俺全然ねえよ。
【麻枝】あと、大阪のおいしい焼き肉屋さんに行ったら店員から「麻枝さんですか?」と言われて、そうしたら、奥から別の女の店員が出てきて、「私の方がファンです。サインお願いします」と言われて、プチサイン会にまで発展したり。ただ、サインは店宛でなくて「○○さん江」という名前入りにしたので、店に飾られてはいないようですが。
【 岸 】そういえば、新宿の行きつけのバーで『AngelBeats!』のポスターを貼らせてください、と頼まれることはあったけれど。でも、貼ってもらおうにも、残念ながらポスターが手元にないんですけれど。
【高橋】はい!お店に直にお送りします! 後で教えてください!(広報担当の面目躍如)
【麻枝】あと、四谷に泊まったことがあって、道を歩いていたら、後で神谷浩史さんに会ったときに「四谷にいたでしょう? 2メートルくらい後を歩いていましたよね?」と言われました。ストーカーかと。『AngelBeats!』では、ちょっと顔を晒しすぎましたね。
【高橋】さっき、ここに来る前、早稲田祭を見て回ったときには声を掛けられましたか?
【麻枝】いいえ、誰も気づかなかったですね。また、さっきの、つけ麺のおいしい(ラーメン)店で気づかれたときは、店が凄く混んでいて、すし詰め状態だったんですけど、店員は如何にもラーメン通という顔をしていて、右側に座っていた2人の客は「ちょっと麺が」とか「味付けは……」とか論争してたんで、こいつらはラーメン通だからと安心していたんだけれど、左の方にソレっぽいの、言わなくてもわかるでしょ、そういうのがいて、なかなか帽子を取れないでいたんです。自分、帽子をかぶったまま飯食うのが嫌で、必ず帽子をとってから食うんですけど、そいつらがいる間はずっとかぶっていて、その客が帰った後に帽子を取ったんですよ。
【 岸 】そしたらバレでしまったと。
【麻枝】店員に「麻枝さんですか?」と。「刻みタマネギお願いします」の声でバレたんですけど、お前ラーメン通じゃなかったのかよと。
【 岸 】私は、変化はあまりないですね。いつも行っているところで改めて声を掛けられるくらいかな。
【麻枝】ところで、俺、岸さんの次の作品知っているんですよ。あれは『AngelBeats!』効果じゃないんですか?
【 岸 】おっと、それ以上言われると困るんだけれど。ああ、そういえばそうだね。
【麻枝】もちろんタイトルは言えないですけれど。『AngelBeats!』の効果だったらよかったなー、と。みなさん、次の岸監督作品にご期待ください。(聴衆拍手)


【鈴木】岸監督と麻枝さんの『AngelBeats!』制作中の睡眠時間と体重の変化について。
【 岸 】体重は3kg減りました。大盛り頼んだり、むちゃくちゃ食うのに……。
【麻枝】あんだけ食っててすごいですね。俺、大阪での合宿のときはしんどくて全然食べれなかったんですよ。でも岸さんは……。
【 岸 】俺は結構食べられてしまうんだよね。
【麻枝】前の方の人はわかるかも知れませんが、今もめちゃくちゃ汗かいているんですよ。
【 岸 】機関車のように熱くなるというか、新陳代謝がいいんですね。
【麻枝】俺は、ピーエーワークス社内にPS3体感ゲームのできる「PS Move」の試作品があって、卓球で体重減らしていました。あれは奥行もあってSONYやるなと思いましたね。既に発売されていますけれど、Wii以上の体感ゲームPS3でならできますね。
アニプレックスの系列であるソニー製品を無理矢理持ち上げ、褒めまくる2人)。
【高橋】何のOFF会ですか(笑)。


【高橋】ところで、制作中のお2人の睡眠時間はどうでしたか?
【麻枝】普通です。俺は効率のいい仕事をするんで、1日5〜6時間で仕事を終えます。それで稼げているのでいいんですけれど。(Keyの)他の社員は残業していますが、仕事のできる俺は、3日あれば1曲ボーカル曲が書けます。○○さんは1か月かかりますが。名前出しちゃいましたが、これはオフレコで。
【 岸 】監督の作業というのはやることが多くて、誰それのそばに行って手助けして、いろいろなところに呼ばれて、引きずられていってアドバイスをして、という感じで作業をしていることが多く、1日平均3〜4時間睡眠でした。最終的なところは、全部自分のところに引き取ったので。


【鈴木】それでは、次のコーナー。「ここを見てなきゃ死に切れねぇよ」ということで、お気に入りのシーンを3つほど挙げてください(両者とも結局1箇所ずつしか挙げなかった)。
【麻枝】4話の「Day Game」Aパートで、ユイが、親衛隊の娘たちに駆け寄って行くときの横顔に萌えるんです。可愛いな、と。
【 岸 】ずいぶんピンポイントですね。よく見ているということで。私の方は話数まとめて、という感じでは9話が大好きです。地下のトンネル(に閉じ込められている音無たち)のシーンが、閉鎖空間のパニックモード的に。1話30分の中で、トンネルのシーンは10何分かで、その中で整理できたかな、と。フィルム的に。
【麻枝】音無の事切れるシーンでのことですが、音楽に番号が付いていて、ここ、という場面に使うのが必殺の13番、kanade(サントラ Disk2 track04「kanade」)なんです。庭園で音無が奏を誘うシーンでも使われているものですが、ここに、最初は「幻想曲」(サントラ Disk2 track08「nocturne in the afternoon」か)というのが使われていたんですが、差し替えてもらいました。
【 岸 】この場面では、救助に来る機械の音と、台詞と、音楽のせめぎ合いがありました。自分と、麻枝さんと、鳥羽プロデューサー、飯田音響監督とでずっと悩んで。
【麻枝】朝の10時のアフレコ開始から、夜10時のマスターアップまで、12時間ずっとやってましたからね。あのときのキッチンジローの弁当はおいしかったですね。(同意し合う麻枝と岸)
【高橋】お2人ともキッチンジロー好きですよね。


【鈴木】次のコーナーは『AngelBeats!』の素(もと)、ということで、『AngelBeats!』に至るまでのお2人のことで、この業界に入ったきっかけなどをお話しいただければと思います。
【 岸 】今までも話しているけど。
【高橋】ただし、(これまで話題に出た)野球とゲームのハード以外の話題で。
【麻枝】岸監督は、最初から監督を目指されていたんですよね。visualstyleにその辺のことが書かれています。
【 岸 】そうですね。ここは私からいきます。この業界に入るきっかけですが、入る前から監督になりたかったんです。最初は絵が描けて何でもできる感じの。でも、絵では周りに怪物クラスがたくさんいて太刀打ちできない。それで絵はあっさり止めて、演出にシフトしました。本当はもっと決定的なきっかけがあったんだけれど。で、自分で企画して持ち込んで、というのを繰り返し、「んじゃこいつにやらせてみるか」みたいな感じになりました。自分は昔からアニメ好き、ゲーム好きで、そういったものを見ているとき、スタッフロールで、絵の好きな人はキャラデザなどに目がいくと思うんですけれど、自分は監督や脚本、音響に目がいっていました。演出でも、俺ならこうする、俺ならもっとうまくできる、と見ながら文句を付けていました。
【麻枝】関西のテレビで『AngelBeats!』特別番組が放映されたとき、(他のアニメを見て)俺ならこうするのに、と豪語していました。
【 岸 】それが原動力なんだよ。自分の(アニメへの)見方が、もとから、この演出はこのタイミングでやるとか、あの演出は違う、などと考えていて、最初からそういう気質なのかな?
【麻枝】人を動かす監督業は、ゲームを作っていて嫌いになりました。スタッフに指示をすると、必ず、最初の発注と違うものを出してくる。それで、自分がリテイク魔のため、Keyのみんなには迷惑を掛けないように、アニメの脚本を今回やったという感じです。Keyのみんなには理不尽なリテイクを出しまくったので。今度はピーエーワークスの皆さんに迷惑掛けまくったわけですが。
【 岸 】迷惑な人が2人になっただけですね。
【高橋】雑誌のインタビューで、ANANT-GARDE EYESさんが「とっととOK出してくれ」とサントラ(『AngelBeats! ORIGINAL SOUNDTRACK』)制作のときに言っていたという話がありますね。
【麻枝】そこは雑誌のインタビューでカットされたところなんですけど。1回迷惑を掛けた人とは2度と仕事をしないぞと。本当に俺は小心者なんで。


【 岸 】『エンジェルビート』は……。
【麻枝】さっきから何度か言ってますが、『エンジェルビー「ツ」』ですから。あなたを次の監督作品に導いたのは『AngelBeats!』です。『エンジェル[ハートのマーク]ビート』という漫画は別にあるんですけど……。
【 岸 】なんか俺そう言っちゃうんだよね。もうくせになっている。で、『AngelBeats!』は、ピーエーワークスが今までにない体制で作った作品なんですね。これまでは長いスパンでゆっくり作っていたんですが、『AngelBeats!』ではいきなり現場が戦争状態になりました。そこで、堀川社長が、「このへん、ちょっと(枚数を)落としていいですか?」と言ってきたり。もちろん、全体のクオリティを確保するために、部分的に枚数を落としてレベルをキープする、という意図で仰っていることで、手抜きをしよう、というわけではないんですが、それでも「絶対ダメ!」と言い切っていました。堀川社長も「できます」と言ったんだから、最初に言ったことは変えないで、やるって言ったんだからやれよと。
【高橋】その頃、ピーエーワークスのデスクの相馬さんが、「ピーエーワークスは、今、岸さんにレイプされています」と……
【 岸 】失礼な!
【麻枝】もうバトルロワイヤルの世界ですね。
【高橋】これまで、『true tears』や『CANAAN』は平和に作ってきたのに……。
【 岸 】我々はお客さんに楽しんでもらうことが本望です。スタッフがどうなろうと知ったことではありません。
【高橋】そういえば、岸さんの有名な言葉があって、「皆さん、一緒に死にましょう」ということを仰ったそうですが。
【 岸 】ピーエーワークスの2009年の忘年会だったと思いますが、そのときの挨拶で、来年の抱負として「来年は『AngelBeats!』の年です。皆さん、一緒に死にましょう。死んで良い作品を遺しましょう」と言いました。でも、ピーエーワークス社内でも終わった後、お祭りみたいで面白かった、という言葉はありました。放映と同時進行になったあたりで、現場にお客さんの声が返ってくるというのがモチベーションに繋がって、楽しくて仕方がない、という状況になりました。良くも悪くも、見てもらって感想が返ってくるというのは原動力になる。ゆっくり作ってという方法もあると思うが、リアルタイムに反応が返ってくるという方が自分は好き。お客さんの反応を見ながら作れるというのは大きい。
【麻枝】俺の精神は荒む一方でした(聴衆笑)。ネットの動きとか反応を知らなければいいんでしょうけれど、ゲームのシナリオでも、『Kanon』のときから、何が悪かったのか、延々と調べながらここまでやってきたので、自分がどんなに傷つこうとも、感想は見るようにしています。藤島康介さんとの(『キャラ☆メル Febri vol.01』での)対談でも「ええっ!? ネットの感想を見ているんですか? それでよくやっていられますね」と言われました(当該雑誌を確認するも、その部分は未掲載の模様)。
【 岸 】私は、周りの人のフィルターを通して聞いています。
【麻枝】このままだと「心が折れる」と思ったので、Twitterが流行りだしたので、今はそれだけ見てるって感じですかね。ネットでは匿名性が高いですが、Twitterではある程度書いている人が特定できるので、匿名の掲示板よりは信用しています。今回、Twitterで、「麻枝准は嫌いだけど、今日の早稲田大学のイベントに行ってみる」という人がこの会場に1人はいるんです。この中にいたら手を挙げてください(誰も挙手せず)。常に嫌いだと公言している人で、それでも何百人というフォローが付いていて、一定の信頼を得ている人の言葉ならある程度信用できるだろう、というのもあって、俺のことを嫌いだという人の意見こそ、耳を傾ける意義があると考えています。そういうわけで、俺の名前を書き込んだら見に行きますよー。で、俺くらいの実績があればもう好きなようにすればいいんじゃないか、という意見もあると思いますが……。
【 岸 】クレームの中に宝有りということもあるので、反響を受け止めることは大切だと思います。でも、好きなようにやっちゃう、そういう麻枝さんも見てみたい(笑)。 
【麻枝】もし、そういうことができるなら、作曲で、Aメロ、Bメロは違うけれど、サビだけ全曲同じ、というアルバムを作りたい(笑)。クレームは受け付けません。もっと大物になったら絶対出す。よーし作っちゃうぞー。……で俺の業界に入った理由は?
【高橋】「時間がないので(略します)(笑)」


【鈴木】今回、会場が早稲田大学ということで、学生の頃からやっていて、今でも役に立っているということはありますか?
【麻枝】ずっと引き籠もって作曲やプログラミングをしていたので、今と全く変わっていません。打ち込みやプログラミングをしてたことは、間違いなくそのまま今につながっていますね。
【 岸 】映画を見たり、アニメを見たり、本を読んだり。あとお酒飲んで女遊びしてきゃーって。
【麻枝】俺が引き籠もっている間に、酒飲んで女遊びとかしてたわけですね。俺は全く女遊びなんてしたことないです。
【 岸 】しないよね。
【麻枝】なんでわかるんですか。
【 岸 】まあ、あまりこの話するとアレなので、止めておきましょう。


【鈴木】お酒の話が出ましたが、この質問は毎年このサークルで訊いている話です。皆さんのお好きなお酒や、酒に関する失敗談などをお願いします。
【麻枝】酒弱いんです。今は悪酔いする前に止める人です。ただ、ウィスキーは飲んでて、以前は山崎とか飲んでいたんですが、今は原点に戻って角瓶。角瓶はおいしいです。
【 岸 】確かにウィスキーの角瓶はおいしいね。
【麻枝】ハイボールブームが来て、味が変わった印象があります。ウィスキーは、就職したときは何でこんな錆水飲んでんの、みたいな感じだったんですが、だんだん味わい深くなってきている。今じゃ素面じゃ生きていけない。
【 岸 】それじゃアル中だよ(笑)。僕が1つだけ好きな酒を挙げるなら、スプリングバンク15年ものだね。ほんとうにどうでも良い話をしているな。
【麻枝】失敗談は、大学生のとき、気持ち悪くなるまで飲んで、気持ち悪すぎて、死んだ方がましだと言って「殺してくれー!」と叫んでまわって、それ以降(こんなことは)やりません。
【 岸 】学生時代、ちょうど高田馬場で飲み放題、食べ放題、歌い放題の店で、その店は瓶の口元まで目一杯に酒が入っているの。それは、余り物を混ぜてあるから。そこで飲んで、記憶が飛んで。面白くないよね、どういうシチュエーションかわかんないのに。
【麻枝】酒飲んで、携帯からメール送りまくって、寝る前に、送ったメールに記憶がなくて、あちゃー、と思ったり(したことならあった)。


【鈴木】作品は自分を表現する手段ですか、他人を楽しませる場ですか?
【麻枝】完全にお客さんが大前提。その中で、もし、その作品が心に残ってくれれば、人生に影響を与えられたらうれしいと思いながら作っています。
【 岸 】当然お客さんありきです。自分というものは、放っておいても作品の中から滲み出るもの。逆に、自分を全く出さずに表現できる人がいたら、見てみたい。
【高橋】お2人ともお客さんありきというのが当然というお話でしたが、『AngelBeats!』制作陣で行った「これから頑張りましょう」という「討ち入りの会」でも、麻枝さんが「自分はアーティストじゃないんで」という話をしていて、アニプレックス社長が「麻枝さんっていい人だねー。好青年だねー。」と言っていました。
【麻枝】青年って……35のオッサンやぞ。でも、見た目若いから、学生として、そこらへん(聴衆の席)に混ざっててもわからないよね。まあ、たくさんの方に関わっていただいて、売れないと大変なことになりますから。オリジナル作品で、ロボットが出てこなくて、これだけ売れているというのは前代未聞なように思います。


【鈴木】お2人に、クリエイティブな職業に就こうとする人へのメッセージをお願いします。
【麻枝】まず、アルバイトをして社会常識を知れ、と言いたいです。クリエイターって偏屈な人が多いんで、開発チームとかに入っても、協調性がないとやっていけません。俺も社会性を身につけるため、スーパーでレジ打ちのバイトをやりました。当時は手打ちで。そのとき、スーパーで生花を売っていて、レジに持ってこられて、困ったこともありました。これどう包むんですか、と先輩の店員に訊いて教えてもらって、なんとかこう紙で巻いて。それ以降心掛けていることは、コンビニとかで会計を終えたとき、レジの人に「ありがとうございます」の一言を言うようにしていることですね。これは感謝の気持ちを忘れないようにするため。こういったことは、人への接し方というか世渡りのために最低限必要なことですね。
【 岸 】コミュニケーションというか、コミュニティというか、どこまでいっても人が宝なんです、この業界は。所詮自分1人でできることはタカが知れている。麻枝さんと一緒です。
【高橋】1人で全てつくれてしまうようなスーパーマンのようなひとならともかく、ですね。
【 岸 】映像作品で監督、という自分の立場で言うと、人が動いてくれないと何もできないんです。いくら自分がこうしろ、ああしろ、と指示をしても、例えば、美術さんが絵を描きません、撮影担当が仕事しません、と言ったら終わりなんです。(監督だからといって)勘違いしちゃいけない。
【麻枝】『AngelBeats!』も3年かかったし、Keyでも1作に2年以上かかっている。ずっと同じメンバーで制作をしていると、だんだん精神衛生状態が悪くなってくる。そのときに、協調性は重要になってくると思います。


【鈴木】麻枝作品にも岸作品にも、真面目な中であっても面白いギャグが織り込まれていることが多く、ギャグに力を入れていらっしゃるようですが。
【麻枝】俺のモットーに「泣きは譲るが笑いは譲らん」というのがあります。雑誌のインタビューでも言いましたが。ここで宣伝になりますが、12月に『棗恭介の大喜利ミッション』という本が発行予定です。これは、「電撃G's magazine」さんで連載している記事の単行本化で「監修:麻枝准」となっていますが、記事で投稿ネタを拾ってツッコミを書いているのは全部俺です。これの原稿の締切が11月10日で、東京に来るときも、行きの新幹線でずっと原稿を書いていました。『To Heart』、『Kanon』という泣きゲーの流れで、自分が泣きを引き継いだみたいに思われて、Keyというメーカーはなんでかわかりませんが泣きゲーのブランドというイメージが定着しているんですが、本来、俺の売りはコメディなんです。堀川社長も最初『AngelBeats!』はコメディだと思っていたそうです。で、本編があんなんだったんで、(Blu-ray/DVDに付属の)1話のオーディオコメンタリーを聴いて、「こういうのが作りたかったんだ!」と仰って。
【 岸 】5話のAパートで、コメディのスタンダードは一通りやれたと思います。(Blu-ray/DVD特典の)14話では、コメディを作りたかったという堀川社長のお眼鏡にかなう作品になっていると思います。スタッフがもうノリノリで、やりたい放題やっているので。まさにスタッフ力(りょく)の賜物ですね。これまで13話分積み重ねてきたものがここに出ていると思いますので、ぜひ見ていただきたいですね。


【鈴木】お2人がよく聴く音楽や、よく読む本がありましたらご紹介ください。
【麻枝】俺は、本はほとんど読まないんですよ。年に1〜2冊しか読まない。marinaちゃんから「むっちゃ本読んでると思ってました」と言われましたが、全然読んでません。代わりに、音楽はむちゃくちゃ聴きます。月に40枚とかCD買うんで。案外売れ線も聴いているんですよ。昔は合わんと思っていたスピッツに、いま大ハマリしています。昨日も新幹線で聴きながら、大喜利のネタ考えて。あと、これは前から言っていますが、小室哲哉を師匠と仰いでいて、TM NETWORKの曲を学生時代に全部打ち込みでやってアレンジの仕方とかを学んできました。で、スピッツは、活動期間が長くて、アルバムがたくさん出ています。遡って聴いているのですが、こんなにいいアーティストを俺は放ったらかしにしとったんか、みたいな。
【 岸 】聴く音楽はジャンルがばらばらですね。人から勧められたりしたものを聴いたりしている感じで、新しいやつを追いかけたりはしないですね。
【麻枝】新しいやつで、AKBとかはどうですか?
【 岸 】ないわー(笑)
【高橋】そういえば、12月(8日発売)のガルデモラストシングルが、ちょうどAKBと発売日がかぶっているんですよ。
【 岸 】最大のライバルですね。
【麻枝】あー、それはきっついですねー。ところで岸さん、さっき出たミニマルミュージックではスティーブ・ライヒとかどうですか?
【 岸 】うん、気になったら聴こうかと。このジャンル、とかで掘り下げたりはしないですけど。
【麻枝】俺も広く聴いているんですよ。
【 岸 】でも、時々ドーンとハマるんでしょ? 今、俺、八代亜紀とかが沁みるんですよね……。演歌。なんか皆さんの反応がないけど(苦笑)。
【麻枝】スピッツの「ロビンソン」あたりから曲が良くなったのは、草野(正宗)さんの彼女が変わったからからですよ。アルバムの「ハチミツ」というタイトルは、溶け合うふたりという意味で、これは○。○○のことですよ。あ、ここもオフレコで。


【鈴木】お気に入りの場所などがありましたら教えてください。
【麻枝】藤島康介さんとの(キャラ☆メル Febri vol.01での)対談で、三谷幸喜さんが、アイディアの出ると言っていた場所が、シャワーを浴びているとき(p.84〜85)だという話が出て、一日に何度もシャワーを浴びるんだそうです。考えに考えて、自分を追い込んで、ストレスを溜めたときに、トイレやシャワーでフッとアイディアが出るんです、という話で、それは俺も同じで、Keyでも、トイレに立ったときに良くアイディアが出るんです。俺はこのトイレを「奇跡のトイレ」と呼んでます。
【 岸 】僕もスタンダードだけれど、(アイディアが出るのは)シャワーかな。
【麻枝】書面とかに向かい合ってうんうんうなっているときには、いいもんは絶対に出てこないです。でもそういうプレッシャーは必要なんですけど。
【 岸 】あと、自分のときは、バーで飲みながら、降りてきたぞー、と。無理矢理(捻り出している感じ)だけど。
【麻枝】大人の遊びをしたことがないので、バーなんて行ったことないですし。
【 岸 】じゃあ、今日これから一緒に行こうよ。


【鈴木】では、お客さんからの質問で、いつも麻枝さんに訊いていることになりますが、現在の食べ物のマイブームがあれば、というご質問です。
【麻枝】今は酢豚ですね。レコーディング中、チャイナクイック(注:麻枝氏自身は「クイックチャイナ」と発言し、この後誤用を続ける。本稿では修正して掲載)の酢豚弁当がうまかったんですよ。大阪にはチャイナクイックがないので、この味にかなうものが身近にないのが残念です。で、代官山店に頼んだときと、別の店では味が違うんです。代官山店のは最高でしたね。高田馬場店のはダメです。早稲田のみなさんごめんなさい。


【鈴木】それでは、最後に、激レアアイテムプレゼント抽選会「そいつは最高に気持ちがいいな……」です。お2人のサイン入り野球ボールを10個ご用意させていただきました。こちらにクジの入った箱がありますので、岸さんと麻枝さんでそれぞれ5枚ずつ引いてください。クジには番号が書いてあり、その番号の席にお座りいただいている方にボールをプレゼントいたします。当たった方は前に出てきて受け取ってください。
【麻枝】当たった人で、俺のこと嫌いと言った奴だったら言ってください。


【当選者番号】
麻枝1人目244番、岸1人目253番
麻枝2人目 82番、岸2人目237番


【高橋】なんだか200番台ばかりですね。……ちょ、麻枝さん、何(クジの)中見てるんですか。
【麻枝】もうちょっと若い番号の人にもあげようと。番号見ても誰だかわかんないし、いいでしょ。


麻枝3人目252番、岸3人目 132番


(麻枝氏、俺のことを嫌いだと言った人かどうか1人ひとり訊いて回ったため、自分でも「魔女狩りみたいだな」と発言)


麻枝4人目 97番、岸4人目 76番
麻枝5人目 27番、岸5人目 11番


【高橋】それでは、最後に、少し時間が余りましたので訊いてみたいことがいくつかあります。まず、こんな質問が来ていました。6月に『AngelBeats!』が終了した後、生き甲斐がなくなってしまいました。どうすればいいですか?(聴衆笑。ここで「京都大学のイベントに出したはずの質問が早稲田で読まれている、の声あり。企画がかなりの部分アニプレックス主導で行われていることが、高橋氏出演以外でも明らかになった模様。)
【麻枝】今は自分も燃え尽き症候群なんですが、Wiiで『Xenoblade』をしてください。移動中はPSPで『零の軌跡』をしています。あとおすすめは『Ys VII』。Ysはいいですよ。
【 岸 】今やっているゲームは、月並みだけれど『モンハン』です。『アイルー村』。コンプリートしたら、『モンハン3』に繋がるものがあるんじゃないかと。あと、『ペルソナ』シリーズがいいと麻枝さんが仰るので、それもやりました。
【麻枝】ゲームも面白いんですけど、『AngelBeats!』制作であまりに刺激的な毎日を送っていたので、今は、平凡な毎日が退屈で、面白くないです。ゲームが色褪せて見えます。あ、でも『Xenoblade』は面白いです。ちなみに折戸さんは『Xenoblade』のプレイ時間が99時間99分でカンストしたそうです。
【 岸 】僕は今、据置機でゲームをしている時間はないね。


【高橋】では、最後の質問です。脚本会議などで大阪から東京への往復が辛いと仰っていた麻枝さんですが、もし、次の企画が来たら受けますか? もし、テレビ電話などでもいい、というお話しだったらどうですか?
【麻枝】物理的に、テレビ電話では収拾が付かないです。みんなが揃ってわーっとダメ出しするので。
【 岸 】じゃあ、今度は俺が大阪に行くよ。お金出してくれたら。大阪合宿楽しかったし。
【麻枝】集中して責められて、俺はそれで心が折れて、食事の誘いも断って帰ったくらいです。最初の会議のときはおつきあいしたんですけど、2度目だっけ?そのときは帰りましたね。
【高橋】岸さんは、オファーがあったらどうします?
【 岸 】麻枝さんとのお仕事だったら喜んでやります。
【麻枝】あー、またアニメやるんですかー。アニプレさんからオファーがあれば仕事しますが、それはリスク高いですね。というかオファーないんじゃ? でも、俺、次の仕事何も決まってないんで。大喜利本締切の11月10日より後、本当に何も仕事ないんです。


【高橋】では、お2人から最後にコメントを。
【 岸 】何はともあれ、『AngelBeats!』を多くの人に見ていただいて、楽しんでいただけて、制作陣として、ありがとうございました、というほかはないです。2010年には『AngelBeats!』という作品があったことを覚えていていただければ。これからもまたいろいろな作品を作っていきますので、引き続き見ていただければと思います。
【麻枝】『AngelBeats!』という作品で、本当に自分のファン層ががらっと変わりました。古参ファンには「こんなんで麻枝准を考えてもらったら困る」と言われ、新しいファンには「感動しました」「初めてアニメを見て涙を流しました」と言ってもらえて、一応、成功と言えるのではないかと思っています。『一番の宝物』という良い曲も書けましたし。これからも、みなさんの心に残ってもらえるような作品を作っていきたいと思います。全力で駆け抜けてきた3年間だけれど、嫌いだという人もいたようですが、多くの人に『AngelBeats!』を愛していただけて、本当にありがとうございました。


(拍手。岸、麻枝両氏がっちりと抱き合う。両者手を挙げて岸氏より退場。BGMは「Brave Song」。麻枝氏は帽子を脱いで壇上で深く一礼。退場口のドアの前で聴衆の方に向き直り、もう一度深く一礼し退場)